大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和41年(行ケ)1号 判決

原告 片山深

被告 岡山県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

原告は、「昭和四一年四月一〇日行われた岡山県久米郡久米南町議会議員の一般選挙における選挙の効力に関する同町選挙管理委員会の決定に対し原告のなした審査の申立につき、被告が同年八月二七日なした裁決を取消す。右一般選挙を無効とする。」との判決を求め、被告は主文第一、二項同旨の判決を求めた。

第二、原告の請求原因と被告の主張に対する答弁

一、本件選挙に関する告示を掲示した場所に関する瑕疵について、

(一)1、岡山県久米郡久米南町選挙管理委員会規程には、公職選挙法に基いて選挙管理委員会のなす告示は同町公告式条例によつて定められた掲示場にこれをすると定められている。

2、昭和二九年制定の同町公告式条例第一号第七条には掲示場の位置をつぎのとおり定めている。

(1) 久米郡久米南町下弓削五五八番第二地

(2) 同郡同町里方八〇五番地

(3) 同郡同町中籾三一三番第二地

(4) 同郡同町神目中一、二六七番地

右(4)の掲示場の位置は久米南町役場神目支所の移転に伴い昭和三〇年一二月二二日同町神目中七九六番第二地に変更された。

3、右公告式条例の定める掲示場の位置は町役場及びその三ケ所の支所をいうものであるから、その位置もその旨の具体的名称を明示すべきであるに拘らずこれをせず、町名地番のみによつて表示しており、表示が不明確であつて住民は現実の掲示場の位置を容易に知ることができないので、右公告式条例のうち掲示場の位置を定めた部分は無効である。

さらに、公告式条例に掲示場の位置を表示するには不動産登記簿記載の地番を表示し、かつ不動産登記法の定めるところに従つて地図・施設所在図をもつてその位置を示すべきであるに拘らず、右条例に表示された地番には不動産登記簿上の地番との間につぎのような喰い違いがあるうえに図面による表示がなく住民は掲示場の位置を容易に知ることができないから、この点から見ても右条例のうち掲示場の位置を示す部分は無効である。

条例が定めた四ケの掲示場の位置は不動産登記簿の記載によればつぎのとおりである。

前記(1)の掲示場の位置は久米郡久米南町下弓削字町頭五五八番の二

同じく(2)の掲示場の位置は同郡同町里方字町ノ内八〇五番地

同じく(3)の掲示場の位置は同郡同町中籾字法名三一三番の第二

同じく(4)の掲示場の位置は同郡同町神目中字稗田七九六番の二

4、具体的には、前記2の(2)の掲示場の位置は久米南町役場旧誕生寺支所を、(3)の掲示場の位置は同町役場旧龍山支所を、(4)の掲示場の位置は同町役場旧神目支所をそれぞれさすものであるが、右各支所は昭和三九年八月三一日限りすべて廃止され、町はその施設に対する使用権原を失つたから、右公告式条例のうちこれに関する部分を同時に改正しない限り、右三ケの掲示場は当然廃止されたものである。

したがつて右三ケの掲示場になされた告示は無効である。

(二)1、前記2の(1)の掲示場の位置は、町役場をさすものであるが、そこに設けられた掲示板の前面には石垣がありその上に植木が植栽してあり、住民は容易に掲示板に近づくことができない状態であるから、冊子様に綴じ、手にとつて閲覧するのでなければその内容を知ることができないような方法で右掲示板になされた本件選挙に関する告示の内容を関係住民が知ることは著しく困難である。

2、同町役場誕生寺支所廃止後その敷地上の建物は民間会社においてこれを賃借し使用している。

3、同町役場龍山支所廃止後その敷地および地上建物は久米南農業協同組合が使用している。

4、同町役場旧神目支所の掲示施設は、その敷地内ではなく県道敷内にある。

5、前記四ケ所の掲示場の位置のうち町役場を除く三ケ所に久米南町役場支所が設けられていた間はさておき、これが廃止された以上住民は右三ケ所の掲示場は同町公告式条例に定める掲示場とは考えない。

6、右のように、公告式条例で定める掲示場所に掲示施設がないか、掲示場であることの標識がないか或いはその場所が不適当であつた。

7、したがつて右掲示場になされた告示は無効である。

二、告示書掲出の方法に関する瑕疵について、

本件選挙に関する告示の掲出は、それを記載した数葉の用紙を綴じて一ケの冊子としその右肩に通した紙縒で掲示場の釘に吊す方法でなされたが、これでは告示としての効力がない。その理由はつぎのとおりである。

1、右告示書綴りは現実には選挙期日まで掲示場に吊してあつたが、紙縒で吊してあるのでその性質上風雨に耐えない。

2、冊子様に綴じてあるから、手にとつて見なければ内容を知ることができず、閲覧が面倒である。

3、紙縒で吊してあるから手に取れば切れ易く、切れた場合は修復する必要があり、そのためには修理材料を要し、関係住民としては煩瑣にたえない。

右のような告示掲出方法は、住民に閲読させることを予定しない形式的な掲出方法というべく告示の効力を認めえない。

三、投票所の告示に関する瑕疵について、

(一)  投票所の告示は、投票所が設けられる施設名のみでなくその所在地を町名・地番及び地図によつて示すなど正確かつわかり易い方法でなさるべきであるに拘らず、このような方法でなされなかつた。

(二)  第四投票区投票所は久米南町中籾字法名三一三番の第二久米南農業協同組合龍山支所に設けられたが、これを元龍山支所と表示した投票所の告示は無効である。

(三)  町立神目中学校は昭和四一年一月二七日限り廃止されたが、第五投票区投票所の名称につき、町選挙管理委員会は昭和四一年二月二三日開催された会議において、神目中学校が廃校になつても選挙の混乱を防ぐため右投票所名は神目中学校と告示し、かつ投票所入場券に記載する投票所名も神目中学校とする旨決議し、右投票所を神目中学校とする旨告示したに拘らず、右決議を取消すことなく、かつその他適法な手続を経ないで神目中学校の廃校を理由に右投票所名を久米南中学校神目校舎と訂正する旨告示したのは違法である。

仮に右決議を取消して訂正の告示をしたものとすれば入場券に記載された投票所名も訂正したうえこれを再配布すべきであつた。

四、本件選挙に関する事務は町がこれを管理し、町選挙管理委員会はこれに関与しなかつた。

五、右のような選挙の規定についての違反は選挙の結果に異動を及ぼす虞があることが明らかである。

六、補充選挙人名簿に関する瑕疵について、

(一)  本件選挙に関する基本選挙人名簿及び補充選挙人名簿は町選挙管理委員会によつて調整されず、町がその調整をした。

(二)  補充選挙人名簿の縦覧の場所、期間を昭和四一年四月六日及び七日の両日とする旨の告示は、その日附が右縦覧期間経過後の同月一〇日であり、かつ法定期間後の告示であり無効である。

(三)  補充選挙人名簿に関する公職選挙法二七条三項所定の事項についての告示はその日附が本件選挙期日の告示の日の前である昭和四一年四月一日であつたが、右告示は選挙期日の告示の後になされなければ無効である。

(四)  被告は、右告示はいずれも昭和四一年四月三日各掲示場に掲示してなしたものであり、告示の日附を同月一〇日或いは同月一日と記載したのが誤記であることは、告示番号を参照することにより、また一枚の用紙の表裏に別々の告示を記載しており、他の告示の日附を参照することによつて明らかであるというが、一枚の用紙の表裏に記載された二つの告示はもともと独立のものであるし、また告示の日がいつであつたかは告示書に記載された日附によつてのみこれが証明を許すものであり、他の証拠方法を用いることは許されない。

(五)  したがつて右補充選挙人名簿は縦覧に供さない未確定の名簿であり、右名簿に登録された選挙人の投票は無効であるから総有効投票数からこれを控除すべきである。

そうであれば本件選挙における投票者数等の状況がつぎのとおりであることからみて、右選挙の規定に関する違反は選挙の結果に異動を及ぼす虞があることが明らかであるというべきであり、本件選挙は無効である。

有権者数   六、一一三名

投票者数   五、五八六名

うち有効投票 五、五六八票

無効投票      一八票

棄権者数     五二七名

投票率    九一、三七%

補充選挙人名簿に登載された

有権者数     一三六名

うち投票者数   一一一名

当選者名 選挙においてえた投票数

1 大家覚    三二二票

2 河合忠    二九四票

3 松岡頼平   二八八票

4 有元定之   二八八票

5 中力昇    二八五票

6 杉山栄    二八五票

7 杉本定市   二五五票

8 近藤栄    二五五票

9 秋田正典   二五〇票

10 榊原進    二四八票

11 平賀弥一   二三八票

12 梶谷英也   二三三票

13 坂田稔    二二六票

14 岸本億三   二二二票

15 重近久保   二二一票

16 田淵正雄   二二〇票

17 森尾東    二一九票

18 小林秀雄   二一三票

落選者名

1 河原要    二〇三票

2 志茂忠明   一八三票

3 王治歓一   一七六票

4 杉山広    一七四票

5 清実修    一一三票

6 中島智栄雄  一五六票

第三、被告の答弁及び主張

一、請求原因一について

(一)の1、2を認める。

同じく3については公告式条例の定める掲示場の位置が久米南町役場及びその三ケ所のもと支所の位置をさすものであることを除いて争う。

同じく4については、公告式条例は掲示場の位置を町名地番で特定して表示しているものであるから、町役場支所の廃止は公告式条例に定める掲示場の位置の指定の効力を左右しない。

(二)の1については原告主張の掲示場の位置が町役場をさすものであることを除いて争う。

同じく2、3のうち町役場旧[金延]生寺支所の建物を民間会社において、同旧龍山支所の建物を久米南農業協同組合においてそれぞれ使用していることは認める。

同じく5、6を争う。町は役場支所を設けていた当時、公告式条例の定めに従い同所に掲示場を設置したものであり、同支所廃止後も町及び町選挙管理委員会は従前どおり右掲示場を使用しているものである。

二、請求原因二については、告示書を数葉一括して綴じ、一つの冊子として掲示したことは認めるが、その余は争う。被告はこれを荷造用紙紐を使用して掲示場の釘に吊したものであり違法でない。

三、請求原因三のうち第五投票区投票所の位置については、それは住民の周知するところであり、これに関する告示につき原告の主張するような違法はない。

四、請求原因六のうち(二)及び(三)の告示書の日附の記載が原告主張のようなものであつたことは認めるが、その余は争う。右二つの告示書の日附は昭和四一年四月三日と記載すべきものを誤つたことは、告示番号及び一枚の用紙の表裏に別々の告示を記載しており、他の告示の日附を参照することによつて明らかであり、右告示に瑕疵はない。

同じく(五)のうち本件選挙に関する投票者数等の状況に関する原告の主張を認める。

五、原告が選挙無効原因として指摘する事項はすべて些細なものであり、公職選挙法二〇五条一項にいう選挙の規定に違反するものと言えず、仮にそうでないとしても違反の程度は軽微であり本件選挙の結果に異動を及ぼす虞れはない。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求原因一の主張について判断する。

(一)  右のうち(一)の1、2の事実は当事者間に争いがない。

(二)1、同じく(一)の3の主張について

一般に或る地理的位置を表示するには、町名大字地番によつて特定された地域が異常に広大であるなど通常人が一挙手の労を惜しむことがなくしてなおその位置を適確に知りえないような特段の事情のない限り、これをもつて特定することで足りるものというべく、さらに進んでその位置に存在する構築物などを表示しかつ図面を添付することは必要でないし、またその町名地番の表示は当該不動産に附着する権利関係の公示を目的とする不動産登記簿の記載に従わなければならないものではなく、従来行われている住居表示のための町名地番によつて表示することで足りると解するところ、証人西本達郎、同横部良一の証言及び弁論の全趣旨によれば町公告式条例が掲示場の位置をそれによつて特定した当事者間に争のない前記町名大字地番は従来行われている住居表示のためのそれに適合することが窺われるところ、前記のような特段の事情を認めるに足る証拠はないので、右公告式条例が掲示場の位置を示すのに前記町名大字地番のみをもつてしたことに違法の廉はない。

なおここに、町公告式条例の定める掲示場の位置の特定が不十分であるとの疑問をもつ原告においてさえ、請求原因一の(一)の3、4及び同(二)の1において、右各掲示場の位置が町役場及びその三ケ所のもと支所をさすものであることを自認していることを附加しておく。

2、同じく4について

右掲示場のうち久米南町下弓削五五八番第二地以外のものの位置に、かつてそれぞれ町役場支所が設けられており、それらが昭和三九年八月三一日限り廃止されたことは被告においてこれを明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。しかしながら前記のとおり右公告式条例は掲示場の位置の特定につき町役場各支所をもつてすることをしないで、町名大字地番のみをもつてしているのであるから、公告式条例のうち右部分が各町役場支所廃止と同時に失効したとすることはできない(なお右各支所の廃止と同時に右三つの掲示場を廃止する旨公告式条例を改正したり、当時設けられていた掲示場施設を廃棄したことを認めるに足る証拠もない)。

3、したがつて原告が請求原因一の(一)において主張するところは理由がない。

(三)1、請求原因(二)の1について

町公告式条例に定める久米南町下弓削五五八番第二地の掲示場の位置が同町役場の敷地をさすことは当事者間に争いがないところ、証人西本達郎、同光延憲之の証言及び当裁判所の検証の結果によれば、本件告示書は、右敷地内前庭の開放された表門近くに道路に面して設けられた掲示板の掲示面の上部に打たれた釘に吊して掲示されたが、右掲示板の位置は町道の側線から一米六五糎離れており、これと町道との間に石垣の上に植えられたひばの生垣が介在するが、その掲示面は下方の一部を除いて町道からその大部分を望見しうる状態であつたことが認められる。したがつて関係住民は町道から告示書の掲示を知り開放された表門から掲示板に至り告示書の内容を了知することは容易であつたということができる。

2、同じく2、3、4、5および6について

町が公告式条例により掲示場として指定している場所の土地または建物の使用権原を失つたことのみから公告式条例のうち告示の掲示場所の指定に関する部分が当然失効したとするいわれはないのみならず、証人西本達郎、同横部良一の証言、当裁判所の検証の結果および弁論の全趣旨によれば、町は町役場およびその各支所に町の管理使用する掲示板を設けていたが(町公告式条例により掲示場の位置として定められている同町神目中七九六番第二地になされた告示は同所にある久米南農業協同組合の建物の窓に掛けてあつた黒板になされたものであり、それは県道上にあつたものではない。したがつて右告示掲出の後その附近に新設された現在の掲示板の位置をかれこれ論ずることは本件選挙の効力の判断にあつては無用のことというべきであろうう。)、各支所廃止後も右旧支所に設置した掲示板を管理使用しており、右掲示板に町の掲示板である旨の明示の標識がなかつたとしても、右事実に疑問をもつ住民はなかつたし、また右敷地または建物を第三者が使用するに至つたことにより、町が掲示場を使用し住民がその掲示書類を閲覧するにつき格別支障を生じたこともないことが認められるし、また右掲示場の位置が不適当であつたと認めるに足る証拠もない。

二、請求原因二の主張について

証人西本達郎の証言および右証言により本件選挙につき前記掲示場に提示された告示書綴りのうちの一つであると認められる検乙第一号証によれば、本件選挙に関する告示書は告示の内容をタイプで謄写用原紙に刻み、これによつて洋半紙に謄写したもの九枚を綴じて一つの冊子とし、その右肩に荷造用紙紐を通し、その紙紐で各掲示場の釘に吊して掲示したことが認められ、検甲第一号証は掲示されたそのままの姿の告示書綴りであるとは認められないところ(成立に争いない甲第二号証によれば、町選挙管理委員会は、本件選挙の効力についてなした決定において、告示書綴りが紙縒で掲示板に吊り下げられたとする原告の主張にそう事実認定をしたかの如く見えるが、弁論の全趣旨によれば、これは、告示書を冊子様に綴じ住民が近付き難い場所に掲示したことに告示方法の瑕疵があるとする原告の主張に対する判断として述べられたものであり、告示書綴りを吊り下げるのに使用された材料が紙縒であつたか或いは紙紐であつたかについてはその判断を示していないと見るのが相当であり、右決定における前記判断から直ちに町選挙管理委員会が本件告示書綴りが紙縒によつて吊して掲出されたことを認定したものと解することはできない)、右告示書綴りの耐用性はこれを一枚毎に掲示板に貼付した場合と比較してさしたる相異も認められず、これを手にとつて閲覧したからといつて原告主張の如く毀損し易いものとも思われず、また右告示書綴りが選挙期日まで当初の姿のままで各掲示場に吊してあつたことは原告の自認するところでもあり、告示書の素材が格別脆弱でありその用をなさなかつたとは認め難く、また冊子様に綴じてあつたことも一挙手の労をも用いずしてこれを閲読しようというのであれば、成る程不能を強いるに近いものというべきであろうが、閲読を望む者はこれを手にとることによつて容易にその目的を達し得るのであり、右掲示方法が不当であり告示はなされなかつたに等しいとする原告の見解ににわかに左祖することはできない。

三、請求原因三の主張について

(一)  右の(一)について

告示によつて投票所の所在を示すには住民がそれを知ることが容易であると認められる適当な方法によつてすることをもつて足り、必ずしも原告主張の方法によることを要しないと解するところ、弁論の全趣旨によればつぎに述べるほか投票所を設ける施設名を告示することにより住民は容易にその現実の位置を知りうる状況であつたことが窺われるので右主張は失当である。

(二)  同じく(二)の主張について

弁論の全趣旨によれば、投票所に関する告示に第四投票区投票所の所在場所として表示された元龍山支所は町役場の旧龍山支所をさすものであることが窺われるところ、それが昭和三九年八月三一日限り廃止され、その後久米南農業協同組合が右庁舎を同協同組合龍山支所として使用していることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば右の事実はすべて住民に公知の事実であつたし、仮にこれを詳かにしない者があつたとしても適宜調査することにより容易に知りえたであろうことが認められ、したがつて前記元龍山支所が現久米南農業協同組合龍山支所をさすことは住民公知の事実であつたというべく、右告示は投票所の告示として違法のものということはできない。

(三)  同じく(三)の主張について

当初第五投票区投票所を町立神目中学校とする旨告示し、後日これを町立久米南中学校神目校舎と訂正する旨告示したことは被告においてこれを明らかに争わないので自白したものとみなすべく、町立中学校の統合措置により神目中学校が廃止され新しく久米南中学校神目校舎が設けられたことは当事者間に争いがない。而して原告は、町選挙管理委員会は本件選挙においては第五投票区投票所の名称を神目中学校とする旨決議しておきながら右訂正の告示をしたので右訂正の告示は違法であるという、右主張の内容は必ずしも明確ではないが、仮に右訂正告示が無効であるというのであれば、当初の第五投票区投票所を神目中学校とする旨の告示は訂正されておらず当初の告示がそのまま生きておることとなり、右告示の有効であることはつぎに説くとおりであるし、訂正告示により右投票所に関する住民の認識に混乱を生じ、右投票所に関する告示が全体として無効となるというのであればその然らざる所以はつぎのとおりである。すなわち投票所を告示する趣旨はその施設の位置を選挙人に知らしめ選挙権の行使に遺憾なきを期するにありそれを出でるものではないと解するところ、証人西本達郎、同横部良一の証言及び弁論の全趣旨によると、昭和四一年四月初旬頃、町は旧神目中学校の施設を久米南中学校神目校舎の施設として使用していたが、統合措置がとられて間のない頃のこととて住民は従来どおりこれを神目中学校と呼んでおり、告示に投票所として神目中学校と表示されようが或いは久米南中学校神目校舎と表示されようがいずれにしてもそれは旧神目中学校の施設内に前記投票所を設ける趣旨であることは住民何びとの眼にも明らかなところであつたことが認められるので右投票所の告示に瑕疵はない。

四、請求原因四について

成立に争いない甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば本件選挙に関する事務は町選挙管理委員会がこれを管理したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

五、請求原因六について

(一)  そのうち(一)について

前記甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば原告主張の選挙人名簿は町選挙管理委員会によつて調整されたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  同じく(二)ないし(五)の主張について

原告主張の各告示書の日附がいずれも原告主張の如きものであつたことは当事者間に争いがない。原告はこれを捉えて右各告示が無効であると主張する。しかしながら公職選挙法が選挙に関する告示につきこれをなすべき期限を定めた趣旨はあらかじめ選挙人に周知せしめるべき事項につきその内容に応じて妥当とみられる期限までに告示させることによつて選挙人にこれを知る機会を与えようとするにあり、そこで問題とさるべきは告示書の日附がいつであるかということでなく、告示がいつなされたかということであると解されるところ、証人西本達郎の証言によれば、原告主張の右各告示は昭和四一年四月三日掲示されたことが認められずのみならず(告示がいつなされたかは告示書に記載された日附によつてのみこれが証明を許すとする根拠はない)、前記検乙第一号証によれば、右告示はいずれも昭和四一年四月三日附の他の告示とともに一枚の洋半紙に謄写され、右二枚の告示書は同月三日附同町選挙管理委員会告示第六ないし第一七号を謄写した他の七枚の洋半紙とともに冊子様に綴じてあることが認められ、右のような告示書の内容ならびに体裁、証人森尾隆の証言によつて成立の真正であることを認めうる乙第五号証及び証人西本達郎、同横部良一の証言によれば右二通の告示書の日附はいずれも同月三日と記載すべきものを誤つて前記のとおり記載したものであることが明らかであり、これをもつて選挙の規定に違反するものということはできない。

なお証人森尾隆の証言及び成立に争いない乙第四号証によれば、町選挙管理委員会は昭和四一年三月一日頃、町内に配置された一六〇名余りの連絡員を介して、補充選挙人各簿への登録該当者を含む町内の全戸に、同年四月三日までに補充選挙人名簿への登録の申立ができる旨を選挙期日及び投票所名などと併せ印刷した同年三月一日付町広報紙「明るい久米南」を配布し、かつ住民票の記載及び右連絡員の報告等に基いてすべての補充選挙人名簿への登録該当者に対し同年四月三日までに右登録の申出ができる旨及び右申出はこの葉書によつてもなしうる旨を記載した往復はがきを発送し、右登録の申出は支障なく行われたことが認められ、前記告示の日附の誤記が補充選挙人名簿の調整に支障を来たし、選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあつたものと言うことはできない。

六、右のように原告が本件選挙の無効原因として主張するところはすべて理由がないから、原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなくこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林歓一 中原恒雄 西内英二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例